建設業の親方が気になる社会保険の抜け道とは
令和2年10月1日、建設業許可要件に「適切な社会保険への加入」が追加されました。
職人さんを雇っておられる親方も、これまで自分には関係ないと思っておられた一人親方にも、仕事をする上で影響のある事柄です。
今回は、建設業の親方が気になっている「社会保険の抜け道」について解説していきます。
Contents
1: 親方にとって負担になる社会保険の抜け道はあるのか
親方(職人さんを雇用している親方、一人親方)にとって、社会保険への加入が必要であることは理解されているでしょう。
しかし、実際のところ、社会保険に加入すると費用の負担があるので、出来れば抜け道を使って回避したいという、そんな想いもあるのではないでしょうか?
ここで、社会保険の抜け道はあるのかどうかについてお話していきます。
(1)広義の社会保険とは
社会保険と言われても、どういった保険が当てはまるのか、いまひとつ良くわからないというお話を聞くことがあります。
そこで、まずは広い意味での社会保険について見ていきたいと思います。
広義の社会保険とは、次の保険を指しています。
- 労災保険(労働者災害補償保険)
- 雇用保険
- 公的医療保険
- 公的年金保険
- 介護保険
それぞれの保険について、ざっくりと説明します。
[1]労災保険(労働者災害補償保険)
労働者が業務上や通勤中に災害に遭った場合、労働者本人や遺族に保険給付を行う制度です。
労災保険は親方が職人さんを雇用する場合、法人・個人を問わず加入しなければいけない保険です。
いっぽう、建設業の親方に多い「一人親方」や、法人・個人の事業者は、自分で仕事を決めることができますので「労働者」ではありません。そのため、従業員と同じ一般的な労災保険へ加入することはできません。
しかし、実際に仕事をするときの危険度は同じですから、国が特別に加入を認める「労災保険特別加入制度」を利用することで、事業者も万が一の時に守られる仕組みとなっています。
[2]雇用保険
労働者が失業したときの生活を保障するための保険です。
ここでのポイントは、労災保険と同じように「労働者」が対象になっていることです。
そのため、法人・個人の事業者や、一人親方は「事業主」となりますので加入することはできません。
あくまでも従業員さんのための保険です。
[3]公的医療保険
医療保険にはいくつかの種類があります。
- 従業員(労働者)が加入する医療保険(健康保険組合など)
- 共済組合等
- 船員保険
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療制度
一般的には「従業員(労働者)が加入する医療保険(健康保険組合など)」や「国民健康保険」が親方に当てはまります。
病気やケガをしたときに備える保険ですので、必ず加入しておきましょう。
[4]公的年金保険
年金保険には2つの種類があります。
- 国民年金
- 厚生年金保険
厚生年金保険は労働者や労働者の家族が対象の保険です。
親方の多くは「国民年金」に加入されることになります。
[5]介護保険
福祉サービスをはじめとした制度を維持する保険です。
(2)親方によって理解するべき社会保険
職人さんを雇用しておられる親方であれば、
- 労災保険
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
これらの社会保険に加入しているかどうかをチェックしておきましょう。
一人親方の場合は、
- 労災保険
- 健康保険
- 国民年金
まずは、この3つに加入しているかどうかがポイントになってきます。
(3)絶対に加入したい保険とは
上記の社会保険の中で、仕事柄「必ず加入」しておきたいのが「労災保険」。
しかし、どうも忘れられることがあるようです。
その理由は、費用負担が大きいからという話もあります。また、手続きが面倒という話もあるようです。
(4)実際に抜け道はあるのか?
では、実際にこうした社会保険への加入をしないために「上手な抜け道」があるのかというと、私たち国家資格を持つ社会保険労務士から申し上げますと
「絶対に抜け道はありません!」
インターネットでは抜け道がありそうに書かれている記事もあるでしょう。SNSで抜け道があるような情報が出回っているかもしれません。
しかし、職人さんを雇用している親方であっても、一人親方であっても、社会保険に加入せず、これからも仕事を続けていくことは「ほぼ難しい」のが現実です。
というのも、職人さんを雇用されている場合でしたら、社会保険に加入していないような条件の良くない会社へ「できる」新しい人はやってきません。腕の良い職人さんを雇用することができませんから、事業そのものが苦しくなっていくことは明らかです。
一人親方の場合ですと「黙っていればわからない」という想いもあるでしょうけれど、今後は現場への入場に「社会保険の加入証明」がないとNGをくらう可能性が高まっています。
元請けとしても、社会保険未加入の一人親方に依頼して、現場でケガでもされたら責任追及されるのは元請けですから、余計なリスクを背負いたくないという心理が働きます。
公的な「義務」もありますが、実際に「仕事ができなくなる」という現状を考えると、先ほども申し上げましたが、
「絶対に抜け道はありません!」
ということになります。
おかしなネットの情報を信じないでください。親方のために、もう一度申し上げます。「抜け道はありません」。
2: 社会保険の費用で事業運営が狂うことも
社会保険の加入費用について、事業者が悩むところだと思います。
特に、一人親方の場合ですと、こうした費用の計算をやってくれる経理職の人が必ず自分の身近に居るわけではありませんので、ついつい後回しになってしまうのもわかります。
そこで、「とりあえず」ネットで検索したところで加入した。そんな親方もいらっしゃるようですが、ご自身のこれまでの収入や生活スタイルを確認せずに、「良さそう」というだけで加入すると、思わぬ大きな出費になってしまうこともあります。
反対に、「とにかく安いので」という気持ちで加入すると、万が一の時に、親方の生活を維持できるだけの給付がされない。そんなこともあります。
このような現実的なお話をすると「面倒だな」と感じられるかもしれませんが、そういうときには私たちのような「社会保険労務士」へご相談ください。
親方の収入や生活をお伺いし、万が一のときにも最適な給付が得られるプランを、無理の無い費用範囲で一緒に検討していきたいと思います。
親方だけで考えていても、おそらく良いプランを選ぶのは難しいと思います。そんなときこそ、専門家の知恵と経験を活用し、安心・安全に仕事を受け続けることができる基礎を手に入れてください。
3: まとめ
建設業の親方にとって「負担」に感じてしまう社会保険への加入。
そのため抜け道を探しておられるのだと感じますが、本文でもお話しましたように「抜け道はありません」というのが答えです。
では、抜け道がないのならどうすれば良いのかというと、専門家と相談して無理の無い方法を見つけ加入することです。
もし、今も未加入のままなら時代のニーズも考えて、加入することを検討してください。