労災保険に加入していない一人親方の注意点とは
建設業の一人親方(個人事業主)は、元請け会社との間に雇用関係がありません。そのため「労働者」ではないため、元請け会社の労災保険の対象にはなりません。
しかし、一人親方も元請け会社の従業員達と同じように、危険と隣り合わせの現場で仕事をされています。万が一、仕事中に手をケガしてしまったり、足をケガしてしまったりすると、ケガの程度によっては明日から現場へ入れないことも考えられます。
そうすると、収入の面や、今後の仕事の面で問題が発生しやすくなり、一人親方にとっては不安な日々を過ごすことになりかねません。
そこで今回は、一人親方にも安心して仕事をしていただき、万が一の場合にも不安をできるだけ少なくできる「労災保険の加入」に関してお話していきたいと思います。
1: 労災保険に加入していない一人親方の注意点
一人親方の中には「現場でケガなんてしない」「カラダが動いている間は健康」という認識で、労災保険に加入されていないまま仕事を続けておられる方もいらっしゃいます。
確かにケガを絶対にしないのなら、これまでどおり仕事へ行けますので生活の面でも、仕事の面でも不安はほとんどありません。
しかし、ケガはどのタイミングで起こるのか誰にもわかりません。
2020年から世界的に始まった「新型コロナ」の感染など、いったい誰が予想できたでしょうか?
このようにケガは、ある日突然起こることなので、「絶対に大丈夫」とは言えないのが現実です。
■労災保険に加入していないデメリット
労災保険に加入していないと、ケガによって仕事ができない期間、次のようなデメリットが親方に降りかかってきます。
(1)仕事中にケガをしたとき
- 現場で仕事中、大きな機械とぶつかってケガをした
- 使っている工具がすべってケガをした
- 足元が悪くてつまずいてしまいケガをした
- 側溝の仕事中に落ちてしまい、足を縫うことになった
もし、こういったことが自分の身に起こってしまい、ケガの程度がひどいと
- 入院
- 自宅療養
が必要になってしまいます。そうすると会社勤めの方なら、休業中も労災保険によって収入を補償されますが、一人親方がご自身で労災保険に加入していないと収入の補償はなくなります。
また、入院や療養中の診察代やお薬代も自己負担になってしまうため、ケガで辛い思いをしているときに、お金の心配も同時に背負うことになってしまいます。
元請け会社の従業員達と同じように(それ以上に)仕事をしているのに、こうしたケースになると「自己責任」のような扱いを受けるのは、一人親方として納得いかないかもしれません。
(2)通勤中にケガをしたとき
現場へ通勤中にケガをすることもあります。例えば、二輪を運転して現場へ向かっているとき、右折車と出会い頭の事故に遭うこともあれば、自動車の左折に巻き込まれてしまうこともあります。
こうした場合、ケガをすると現場での仕事ができません。軽いケガなら何とかできるかもしれませんが、
- 強い打ち身
- 骨折
こういった状態ですと、カラダを使う現場で仕事をするのは大変辛い状態です。
また、早急にカラダの具合を調べ、適切な治療をしておかないと、ケガの影響が長引くこともありますし、後遺症として残ってしまうことも考えられます。
ここで一人親方に知っておいてほしいのは、こうした通勤中のケガに関しても、元請け会社と雇用関係にある人なら「労災保険」が適用され、休業中の補償や治療費の補償を受けることができることです。
いっぽう、一人親方の場合「労災保険」にご自身で加入していないと、仕事中のケガの場合と同じように補償を受けることができません。
ケガをして仕事に行けないのに、収入の補償もなく、治療費も自分で払うことになります。
(3)万が一のとき
万が一、仕事中や通勤中の事故で死亡した場合。労災保険に加入していないと、遺族への補償がありません。
突然起こった不幸でパニックになっている遺族に、少しでも悩みを減らすためにも、労災保険への加入を検討されることをおすすめします。
(4)現場入場の条件
最近の現場では、一人親方が「労災保険」に加入していないと現場入場させてくれないところが出てきています。
また、場合によっては労災保険に加入していないと、仕事が減ってしまうことも考えられます。すべての現場で「労災保険」の加入がないと入場できないわけではありませんが、少しずつ増えていますので、次の現場へ入るときに慌てて加入しなくても良いように、余裕をもって加入を考えておきましょう。
そのほうが、スムーズに仕事を請け負うことができます。
2: 一人親方が加入できる「特別加入」とは
一人親方が少しでもリスクや不安を減らしながら仕事をするためには、労災保険の特別加入を検討してください。
(1)特別加入とは
一般的に「労災保険」というものは、企業に雇用されている「労働者」を対象とした保険です。そのため個人事業主である一人親方は「労働者」ではないため、企業と同じ労災保険へ加入することはできません。
しかし、一人親方には先ほど見てきましたデメリットが多いため、特定の事業を行っている個人事業主も加入できる「労災保険特別加入」というものが用意されています。
(2)特別加入できる人
労災保険の特別加入は、カラダを負傷しやすい職業の方が対象になっています。
例えば、
- 個人タクシー業者
- 個人貨物運送業者
- 水産関係
- 林業関係
- 廃棄物処理や解体工事
そして、大工や左官、とび職など、土木建築に関係する仕事をされている個人事業主が加入対象です。
建築業に関連する一人親方の場合は、もちろん特別加入することができるのです。
3: 労災保険に加入する方法をお伝えします
労災保険に加入する方法は次のとおりです。
(1)特別加入団体として認められている組合や団体を通じて申請します。
親方は、当団体のような「都道府県労働局長」に認められているところへ申し込みの相談をしてください。
相談をすると、担当者が親方の仕事の内容や、保険料の基準となる収入、親方が払うことになる加入費用について回答をもらうことができます。
(2)親方が検討してください
相談結果をもとに、親方がご自身の希望に合った団体を選んで加入してください。
最近ではインターネットを使って検索すると、様々な組合や団体を見つけることができます。
(3)保険料のこと
ここで親方に知っておいてほしいことがあります。それは労災保険の保険料です。
親方が負担する費用の中の一つ「保険料」は、国が決めているため
「どこの組合や団体でも同じ」
ということです。では、組合や団体によって負担する費用の違いはどこで発生するのかというと、
- 組合費
- 更新料
- 手続きの手数料
こういった部分なのです。ですから、親方には労災保険の特別加入を選ばれるときには、保険料だけ、組合費だけで判断するのではなく、トータルの費用で検討してもらいたいと思っています。
例えば、保険料はどこでも同じですから、組合費がめちゃくちゃ安いところで加入しても、ケガをしたときの手続きに費用が発生するとか、更新料が結構高いとかだと、トータルコストは割高になってしまうこともあります。
4: まとめ
一人親方の力がなければ、多くの建設現場は動きません。しかし、一人親方は労災という部分を見ると、ご自身でカラダを守らないといけないリスクを持っています。
十分にケガへの注意をされていると思いますが、リスクをゼロにすることはできません。万が一のとき、少しでも不安や悩みを軽減できる方法として、労災保険の特別加入を検討してみてください。
親方の生活や仕事の内容で加入できるのか。いくらくらいの費用負担になるのか。いつでもご相談ください。
国家資格を持つ社会保険の専門家である「社会保険労務士」が、親方の疑問にお答えしつつ、最適なプランをお伝えさせていただきます。