現場へ入れないかも!?1人親方が加入するべき保険とは?
建設業に関わる仕事の形態は、大変複雑です。一般的な会社員と同じように「雇用」されている方もいらっしゃれば、一時的にパートやアルバイトとして働いている方もいらっしゃいます。
また、今で言うところの「フリーランス」のように、会社に雇用されることなく、お一人で仕事をされている方もいらっしゃいます。
さらに、建設業のお仕事では、元請け、下請け、孫請けというように、複数の請負が発生するため仕事の方法もさることながら、安全面での保障や病気やケガをしたときの保障に違いが発生してしまいます。
今回は、このような複雑な仕組みの中で働いておられる「一人親方」に知っておいていただきたい加入するべき保険についてお話していきます。
Contents
1: 1人親方とは
はじめに「一人親方」について正しく理解しておく必要があります。
(1)一人親方について
一人親方とは、建設業を中心とした言い方です。
具体的には、自分自身のみ、または自分の家族だけで仕事(事業)を行っている方を「一人親方」と呼んでいます。
ここでのポイントは、労働者を雇わずに自分自身や自分の家族だけで仕事をしているという部分です。
一人親方には、建設業を中心とした
- 大工工事
- 左官工事
- 電気通信工事
というようなお仕事の方をはじめ、
- 林業
- 漁業
- 職業ドライバー
こういった業種の方にも「一人親方」として働いておられる人がいらっしゃいます。
(2)一人親方は働き方で変わる
一人親方として働いておられる方には、次の2つの働き方のケースがあります。
- 請負事業者として「出来高払い」で仕事を受けているケース
- 労働者に近い扱いの「日給月給」で仕事を受けているケース
まず、請負事業者としての一人親方の特徴を見ておきましょう。
- 予定されていない仕事を断る自由を持っている
- 仕事の進め方や仕事量を自分で判断できる
- 報酬は出来高払い
もう一つ、「労働者に近い扱い」である一人親方の特徴を見ておきましょう。
- 予定されていない仕事を断る自由がない
- 指示を受けて仕事をする
- 働いた時間に対して報酬が支払われる
あなたはどちらの働き方になるでしょうか?働き方によって、これからお話する社会保険の加入が違ってきます。
ですから、どちらかはっきりしない場合は、社会保険労務士へ相談してみてください。違いがはっきりしないと、あなたにとって必要な社会保険を選ぶことができなくなります。
ここからは、一人親方の中でも「請負事業者」としては仕事をされている方向けにお話させていただきます。労働者に近い扱いで働かれている親方様は、仕事を依頼されている会社へ相談してください。
2: 建設業の一人親方が加入する保険
請負事業者として仕事をされている一人親方が加入する保険があります。
(1)一人親方が加入する保険
次の3つの保険は、加入するべきものです。
- 医療保険(市町村国民健康保険または国民健康保険組合)
- 年金(国民年金)
- 労災保険(一人親方労災保険特別加入)
よく間違えられるのが、
加入するべき保険=生命保険
という考え方です。他にも、
加入するべき保険=損害保険
このようなイメージをお持ちの方もいらっしゃいます。しかし、これらの保険は任意ですから「加入するべき」保険ではありません。親方様が個人的に気になるのなら加入される保険です。
(2)社会保険に加入するメリットとは
社会保険に加入すると、次のようなメリットがあります。
■医療保険
ケガや病気になったとき、保険を使って診療が受けられます。保険を使わない場合ですと、診療費が全額自己負担になりますが、保険を使うと3割負担などによって軽減されます。
■年金(老齢年金)
年金から最もイメージしやすいのが老齢年金です。高齢になったとき、年金として生涯一定の収入を得ることができます。高齢になり収入が減った、無くなったとき、大変心強い仕組みです。
■年金(障害年金、遺族年金)
年金には、老齢年金以外にこういった側面もあります。
万が一ですが障害を負ったり、親方様が亡くなられたりした場合。本人や遺族が一定の年金を得られる仕組みです。
建設業でお仕事をされている親方様なら、身の回りの危険についてご理解頂いているかと思います。注意していても障害を負ってしまう事故はゼロにはなりません。突然の事故で命を落としてしまうことは、他の仕事よりも確率が高いと言えるでしょう。
本当に、万が一のことですが、備えあれば憂いなしです。こういったメリットを理解しておいていただきたいと思います。
■労災保険
仕事をしているときや、仕事場への移動中(通勤も含む)に被災した場合、
- 治療費の負担
- 休業中の収入
これらの補償が受けられます。建設業で働かれている方なら、ケガのリスクは高いものですし、現場への移動も長距離になることがありますのでリスクは他の仕事よりも高くなります。
労災保険は、建設業に関わる方にとって「加入するべき」保険の中で、もっとも重要だと言っても過言ではありません。
(3)特別加入のメリット
一人親方の場合、仕事の依頼先との間に雇用関係はありませんので、依頼先の社会保険に加入することができません。しかし、加入できないままですと一人親方がケガや病気になられたとき、全く補償がありませんので治療費や休業中の負担が大きくなってしまいます。
そこで、こうしたケースを改善するために「特別加入」という枠組みがあります。特別加入があることで、一人親方も仕事中に発生したケガや病気などに必要な治療費や休業中の補償を受け取ることができるようになっています。
簡単ではありますが、一人親方が労災保険特別加入をされた場合のメリットをあげておきます。以下の補償対象は、全て仕事中、または通勤中での被災です。
- ケガの治療が無料で受けられます。
- 休業中の収入補償
- 軽い障害が残った場合には、まとまった一時金の受け取り
- 重い障害が残った場合には、生涯続く年金と介護費用の補助
- 亡くなられた場合には、葬祭料、ご遺族への遺族年金
より詳しく確認されたい場合は、遠慮無くご相談ください。
(4)一人親方には雇用保険はありません
会社員であれば、仕事を辞めたときに雇用保険がもらえます。しかし一人親方の場合は「雇用されている労働者」ではありませんので、雇用保険(失業保険)はありません。
いくら仕事がなくなったからと言っても、会社員のように失業中の補償はないことを理解しておきましょう。
3: 労災保険の特別加入が重要な理由
一人親方に労災保険の特別加入が重要な理由をお話します。先ほどお話ししましたように、社会保険への加入にはメリットがあります。その中でも労災保険の特別加入は、一人親方にとって、次のような特別に重要な理由があると言えます。
(1)休業中の収入確保
仕事中、現場から現場への移動中、現場への通勤中。
一人親方はケガや病気と隣り合わせに居る環境が多いはずです。もし、現場で足のケガをして歩けない期間が2週間あったとすると、その間は現場へ行けないので仕事ができません。
当然、仕事ができない=進まないのですから、元請けから依頼されている工事が予定通りに進まないため、出来高報酬が支払われない可能性が高くなります。
こうした状況になると、ケガで休業している間の収入は途切れ、治療よりも生活することに危機感をもってしまい、治療に専念することができません。そうすると、治癒していないのに無理をして現場に入ってしまい、ケガが悪化したまま仕事をして、さらなるケガをすることもあれば、ケガの悪化によってカラダのバランスが崩れてしまうこともあります。
しかし労災保険の特別加入をしていると、休業中の収入保障が掛け金に合わせて受け取れます。これだけでもかなり安心して治療に専念できます。
(2)治療費の負担減
労災保険の特別加入をしていると、仕事中に被災したケガや病気の治療費はかかりませんので親方が治療費を負担することはありません。
こういった補償があれば、きちんと治療することもできます。
(3)現場入りするため
最近の現場では、労災保険に加入していない人は入れないところも出てきています。
次の仕事を請け負ったけれど、現場へ行ったら労災保険に入らないと入場できない。そんなこともあり得ます。
慌てて加入先を探すよりも、今からじっくりと加入先を見つけておきましょう。
4: まとめ
建設業の一人親方は、危険が多い職場に居ながらもケガや病気をしたときの補償が得られない。そんなケースも過去にはありました。
しかし、今は労災保険の特別加入がありますので、加入いただくことで一人親方も安心して現場で仕事をしてもらえるようになっています。
何かあってからでは遅いですから、元気で健康な今のうちに、労災保険の特別加入を検討しておいてください。