労災保険特別加入のメリットデメリット
一人親方の中には、労災保険の加入を検討されている方や、これから考えてみようという方がいらっしゃると思います。
確かに加入した方が良さそうに思えるけれど、やはり「デメリット」が気になるため、なかなか加入へ一歩進めない。そんな人もいらっしゃると思います。
そこで今回は、労災保険の特別加入のメリット・デメリットについてお話していきます。
Contents
1: 労災保険の特別加入について
はじめに労災保険の特別加入についてお話させていただきたいと思います。
一般的な「労災保険」というものは、どこかの会社に雇用されている「労働者」における「労働中」「通勤中」に発生した災害に対する保護を目的としています。
もう少しわかりやすく申し上げますと、どこかの会社と「雇用関係にある」人が対象ということです。
ここで問題になってくるのが、会社と仕事の契約をしている「一人親方」です。一人親方は、どこかの会社から依頼を受けて仕事をしていますが、これは「雇用関係」ではなくあくまでも「仕事の請負関係」という状態です。
そのため、一人親方は
- 仕事をする時間帯
- 休日の設定
- そもそも依頼のあった仕事を受けるかどうか
こういったことを自分自身で決めることができます。ここが雇用されている人と大きく違うところです。
そして、この違いこそ「雇用関係にある労働者」と「個人事業主である一人親方」を分けるポイントになってきます。
一人親方は労働者ではありません。先ほどもお話しましたように「仕事を自分で決められる」立場であるため「個人事業主」に分類されます。
そして、労災保険は「労働者」にしか適用されませんので、個人事業主である一人親方は加入することができません。
これが労災保険の原則です。しかし、一人親方の多くは雇用されて働いている労働者と同様の業務をこなしておられる方がほとんど。危険度もケガの確率も病気になる確率も大きな違いはありません。
そこで政府からも一人親方は「労働者と同じように労災保険の保護対象とするべき」と考えられたことから「特別加入」という制度が作られています。
2: 労災保険特別加入の種類
知識として覚えておいていただければ良い話ですが、労災保険特別加入には4つの種類があります。
(1)中小事業主等の特別加入
一定の人数以下の労働者を常に使用する「事業主」「役員」「家族従事者」を対象としています。
一人親方が将来、職人さんを雇用されたときに検討する必要があります。
(2)一人親方の特別加入
このページをご覧頂いている親方が加入を検討される内容です。
一般的には個人事業主で、常に雇用している人がいないケースです。
(3)特別作業従事者の特別加入
特定の危険有害な作業をされている自営業者が対象です。
- 特定農作業従事者
- 指定農業機械作業従事者
- 職場適応訓練従事者
- 事業主団体等委託訓練従事者
- 家内労働者及びその補助者労働組合等の常勤役員
- 介護作業従事者
こういったお仕事の方も、労災保険の特別加入を利用することができます。
(4)海外派遣者の特別加入
日本から海外事業に派遣される方が利用できる労災保険です。
おそらく親方の場合は「一人親方」のところに該当すると思われますが、少し特殊なお仕事をされている場合、ご自身がどの種類になるのかわからないこともあるでしょう。
そうした場合は、当協力会までご相談ください。親方のお仕事をお聞きし労災保険に加入できるのかどうか。どの種類で加入するのが良いのかをお調べしご回答させていただきます。
3: 労災保険特別加入の特徴
労災保険特別加入の特徴についてお話していきます。
(1)加入できる人と、そうでない人がいる
先ほどお話しした4つの種類を思い出してください。これらの内のどれかに該当しないと特別加入することができません。
もう一度、対象者をまとめておきますので参考にしてください。
- 中小事業主、役員、その家族
- 一人親方
- 特定作業従事者
- 海外派遣労働者
例えば、建築関係の一人親方の場合ですと、ほとんどのケースで対象者となります。ただし、建築関係のお仕事の中でも特殊な作業をされている場合は対象者に含まれないこともありますし、加入のために前もって健康診断が必要になることもあります。
自分が加入できるのかどうか迷っていても仕方ありませんので、まずは当協力会のような労災保険加入をお手伝いしている協力会や組合などにご相談ください。
(2)年間保険料
労災保険の年間保険料は、一律ではありません。職種や給付基礎日額の金額などを基準にして算定(計算して決める)します。
この特徴のポイントは、給付基礎日額の設定を高くすると、万が一のとき親方へ支払われる金額も多くなりますが、比例して親方が支払われる保険料も高くなります。
ご自身の年収を基準にして、適切な金額を決めてください。無理して高額にしても良くないですし、少なすぎた場合に万が一の事が起これば生活が厳しくなります。
(3)補償の範囲
労災保険の補償が適用される範囲には2つあります。
- 業務上に発生した災害
- 通勤途中に発生した災害
業務とは関係なく起こった災害は対象になりません。また、通勤途中に決まった経路から外れて起こった災害も対象にならないことがほとんどです。
4: 労災保険ではなく民間傷害保険という方法も
一人親方にとって労災保険の加入は、仕事を請け負う上でも必要なことになりつつあります。しかし、どうしても労災保険に加入できない理由をお持ちの場合は、民間の保険会社が提供している傷害保険に加入するという方法もあります。
民間の傷害保険は、基本的に「どなたでも加入」できます。労災保険の特別加入と比較すると厳しい決め事がありません。
また、保険会社によって差はありますが、補償内容を最小限にすれば労災保険特別加入の保険料よりも、民間傷害保険の費用の方が安く設定されていることもあります。
労災保険の特別加入の費用負担が厳しい。でも、何か補償がないと不安。そういった場合は、民間の傷害保険を比較検討の一つに取り入れてみてはいかがでしょうか。
5: 労災保険の特別加入と民間傷害保険のメリットデメリット
(1)労災保険の特別加入におけるメリットとデメリット
[1]メリット
- 任意加入制度である
ご自身のお仕事によって加入するかどうかを決めることができます。
- 保険料設定を選べる
ご自身で必要な保険料の掛け金を選べます。無理して高い掛け金にする必要もありません。
- 災害が起きたときの治療費が全て補償
業務中の災害や通勤途中の災害として認定されれば、治療費は全額補償されます。親方の負担はありません。
また、災害が原因で働けなくなった場合は、休業(補償)給付が受けられますので、生活の上でも安心です。
[2]デメリット
- 特別加入は団体や組合を通す必要がある
自治体の窓口へ行って申し込む。こういった仕組みではありません。労災保険の特別加入を取り扱っている
- 組合
- 団体
- 協力会
などに事務処理を委託し、そこを通して加入する必要があります。
(2)民間傷害保険におけるメリットとデメリット
[1]メリット
- 任意加入制度である
ご自身のお仕事によって加入するかどうかを決めることができます。
- 保険料設定を選べる
ご自身で必要な保険料の掛け金を選べます。無理して高い掛け金にする必要もありません。
- 加入時の制限が少ない
比較的加入しやすくなっています。
[2]デメリット
- 治療費や休業補償に注意
一定の費用を保険会社が払ってくれます。しかし、治療費がオーバーした場合は、それ以上の補償が得られないこともあります。
休業補償に関しても、保険の契約に含まれていなければ補償がありません。ご自身できちんと契約内容を確認しておく必要があります。
6: まとめ
労災保険特別加入のメリットとデメリットについて説明しました。
今回お話しましたように、一人親方の場合には政府が行っている「労災保険特別加入」と「民間傷害保険」の2つを選ぶことができます。
どちらを選ばれるのかは親方次第ですが、私たちの経験から申し上げますと「労災保険の特別加入」を選ばれた方が、万が一のときの治療費や休業(補償)給付の安心感が違います。
また、最近では「労災保険未加入」ですと現場へ入れないということも耳にすることがあります。親方の安全安心、お仕事の継続性を考えても「労災保険の特別加入」をメインに検討していただきたいと考えております。