労災保険未加入の一人親方が労働災害に遭うとどうなるのか?
働き方が多様になった近年の日本。特に建設業や建築業に関連するお仕事をされている方の中には、会社に勤めて雇用されて働くのではなく、自分自身の力と技術と経験で仕事をされる「一人親方」が増えてきています。
一人親方は仕事をする上での裁量が広く、時間や仕事量を調整しやすいというメリットがある反面、仕事中に災害などに巻き込まれると、雇用されているのではありませんから仕事に出られないと収入が厳しくなる。こういうデメリットもあります。
今回は一人親方が安心してお仕事を続けるために大切な労災保険についてお話していきます。
Contents
1: 労災保険に未加入の一人親方が労働災害に遭うと?
労災保険というものをお聞きになったことがあると思います。しかし、一人親方の中には未加入のまま今日もお仕事されている方がいらっしゃいます。
万が一のことが起こらないのなら特に気にすることもありません。しかし、親方のお仕事では常に危険と隣り合わせ。いくら自分自身が注意していても、他の人の行動や重機の操作によって、または、現場への通勤途中の事故によって、大きなケガをしてしまう可能性は拭いきれません。
もし、親方がお仕事中に意図せず災害に遭ってしまうとどんなことになるでしょうか?
(1)雇用されているかどうか
まず大切なのは「一人親方」のように働いているけれど、仕事の契約は元請けとの「雇用契約」になっている場合。このケースでは、親方個人が労災保険へ加入している必要はありません。
というのも「雇用関係」にある場合は、雇用主が親方に変わって労災保険へ加入する「義務」が発生するためです。
ですから「雇用関係」にある状態で、現場でケガをした場合は雇用主へ正確に報告し、労災保険の手続きを進めてもらってください。
つづいて、雇用契約ではなく「請負」として仕事をされている一人親方の場合。一般的な表現に変えるなら「個人事業主」として仕事をされている場合。
こちらのケースでは、雇用関係はありませんので、親方は「労働者」ではなくなります。そのため、親方個人で労災保険へ加入している必要があります。
しかし、個人事業主である一人親方は労災保険への加入は「任意」なので未加入のまま働かれている方も多いです。そのため、仕事中や通勤中に災害に巻き込まれても、労災保険の利用手続きをすることができないままということもあります。
まずは、親方の仕事は「雇用」なのか「請負」なのか。ここをきちんと理解しておきましょう。
(2)治療費負担が増えてしまう
「請負」で仕事をされている一人親方(個人事業主)の場合、労災保険に未加入ですとケガや病気の治療費負担が増えてしまいます。
おそらく親方も「国民健康保険」に加入されていると思いますが、労災の治療に対して国民健康保険が使えたとしても3割の負担が必要になります。
例えば、治療費が10万円だったとすると、3万円の負担です。もし、入院する必要があった場合ですと治療費の負担が右肩上がりに増加します。
気持ち的には、「ゆっくりと完治するまで入院していよう」ということにならないですね。費用も掛かるし早く退院しよう。こちらの考え方になると思います。
(3)ドクターストップの期間は無収入
ドクターストップの期間、お仕事へ出ることができません。ということはお金を稼げないということになります。
労災保険に未加入ですと、このリスクがとても大きくなります。治療費は出ていくばかり、収入は減っていくばかり。気が気ではありません。
会社勤めをしているときなら「何とかなるだろう」と思えますが、一人親方の場合は「どうしよう」という思いしか出てきません。
2: 労災保険に未加入だと親方が困ること
先ほども少しふれましたが、次のような目に見える「困り事」が起こります。
(1)支出ばかり増えてしまう
災害によって仕事へ出られない。
でも、次の支出を止めることはできません。
- 治療費
- 食費
- 自宅の光熱費
- 携帯の料金
ご家族がいらっしゃるなら
- 教育費
- ご家族の食費
- 水道代
運悪く、車の車検などが重なると車検代も必要ですし、6月が重なると税金の支払いも迫ってきます。
このように災害という自分に全く非のないことでも、巻き込まれてしまうと一人親方の場合は支出ばかりが増えてしまうのです。
(2)生活を維持できない
治療中は仕事へ出られません。また、万が一ですが後遺症が残ってしまうと、これまでと同じように仕事を請け負えないこともあります。
すると、誰もが想像できるように収入が減ってしまいます。おそらく10万円単位で減額してしまう方もいらっしゃるはず。
しかし、先ほどお話しましたように支出は基本的に減りません。ということは、
収入 < 支出
という状態になりますので、これまでと同じような生活を維持することが大変難しくなります。
ちょっとした節約だけで済めばいいですが、かなりの節約が必要になることもありますし、根本的に生活スタイルを変えないといけないこともあります。
(3)現場に入れない
最近増えてきている、労災保険未加入の「一人親方」が現場へ入場できないこと。
元請けも現場での災害に対して敏感になってきています。安全第一の現場でないと、指導が入るためだと思います。
そのため、入場時点で労災保険加入の方だけを選んでいるということです。おそらく、今後は労災保険未加入だと仕事の依頼も減っていくのではないかと感じます。
長期で実入りの良い仕事になるほど、労災保険加入が「ほぼ義務」のようになるのでしょう。
親方がお付き合いされる元請けさんに確認しておきましょう。労災保険に興味のない元請けさんや、気にしていない現場だけを持っている元請けさんなら問題になりませんが、今後のことを考えておられる元請けさんですと「未加入は困るよね」という話しになると思います。
3: 一人親方が労災保険に加入できる条件
一人親方が労災保険に加入するためには条件があります。
一人親方(個人事業主)だと、誰でも加入できるのかというとそんなことはありません。
次のようなお仕事の方だけに「特別加入」が認められています。
- 建設業
- タクシー運転手
- 林業
など他にもありますが、このページをご覧の親方は建設業や建築業に携わっておられる方が多いので「認められている」業種ということがわかります。
また、建設業や建築業の中でも、細かく加入条件がありますので、労災保険加入を検討されているのなら、私たちにご連絡いただければ加入条件に当てはまっているかどうか調べさせていただきます。
4: 労災保険加入で注意しておきたいポイント
労災保険加入をされるとき注意しておきたいポイントがあります。
(1)年会費や入会費
労災保険への加入は、団体や協会などを通してしか加入できません。そのため、労災保険加入ができる団体や協会などへ入会する必要が出てきます。
そこで、気にしてほしいのが
- 年会費
- 入会費
この2つの費用負担額です。
高いところもあれば、安いところもあります。
ちなみに、労災保険の費用は国で決まっているので、どこの団体や協会でも同じです。親方の負担が大きく変わる部分は、上の2つの費用です。
(2)加入団体の活動参加
団体や協会へ入会する必要があります。そのため、入会先によっては政治的な活動へ参加させられてしまうこともあります。
こういう活動や会合が好きな方は問題になりませんが、あまり得意ではない方にとっては大きな負担です。
活動はしていても構いませんが、参加義務があるのかないのかはきちんと確認しておきましょう。
(3)対応速度
最初の相談から入会手続き。労災保険の加入手続きなど、事務処理が遅いところは避けましょう。
万が一、災害に遭ったとき労災保険に申請をしても、事務処理が進まずお金に困ってしまうこともあります。
5: まとめ
一人親方にとって、カラダは資本です。しかし、常に危険と隣り合わせのお仕事でもあります。
だからこそ、万が一のことを考え、金銭が補償される制度へ加入しておいてほしいのです。ケガをしたとき、ゆっくりと治療できることは最大の安心です。
また、ケガで仕事へ出られないときでも、生活できることは家族にとっても大変うれしいことです。
親方が労災保険に未加入なら、ぜひこの機会に考えてみてください。